セーブル

 朝の口づけの余韻が、唇に残る。それは彼女と交わした、数分の口吻。
「……ん…」
 舐めるように、自分の唇に触れていた柔い感触を思い出す。それは、震えるようでもあり、すがるようでもあり、求めるようでもあった小さな舌と、それを紡ぐ唇。
「今朝は、あれから大丈夫だった? 妙な火照りが体に残ったりはしなかったかしら…?」
 目の前に座る彼女に、ゆっくりと問いかける。
「…ん」
 小さく頷いたように見えたので、問いかけを重ねつつ、覗き込むように顔を見つめる。
「それで?」
「ちょっとだけ、我慢できなかった…」
 わずかに、内股を擦るように体をよじった。そんな仕草が可愛らしくて、思わず悪戯っぽく微笑みながら、また問いかける。
「じゃあ、今は?」
「…うー。虐め、よくない」
 拗ねたように呟く。そんな彼女の様子がたまらなく可愛らしく、私は彼女に感づかれないように、口の中で溢れてくる唾液を確かめた。
「…そうね。でも、そういう茉那の顔が好きなんだもの、勘弁してちょうだいな。それとも茉那は、いじめられたり焦らされたりするのは嫌い?」
「ん…言えないよ」
 彼女の髪を撫でようと伸ばした私の手。それを一瞬見上げた後、うつむくようにして呟く。
「言えないことは了承と解釈するのが私の流儀なのだけれど……それでもいいの? それとも、じっくり体の方にお伺いをしたほうが、素直に答えて貰える…?」
「…ん」
 うつむく彼女の髪は吸い込まれそうなほどに黒くて、この黒髪と自分の黒髪が絡まり合う場面を想像するだけで、下腹部の辺りが火照る。
「…ちょっと、だけなら」
 そして、零れる言葉。照れを隠しながら、けれど本心も伝えるように。
「そうね、じゃあちょっとだけ……確かめさせて」
「うん…」
 小さく頷く。その可愛さにまた笑みが漏れて、私は、呟きながらも彼女の髪をすいていた手を、その耳元に寄せていった。
 指で耳元を探る。ほとんど聞こえないその音も、茉那の耳には確かに響いているのかと思えば、耳全体を、まるでそれが彼女の体であるかのように丁寧に愛撫してしまう。
 ゆっくりと耳を撫でたその手で、そのまま首の後ろを支える。
「じゃあ、今朝の続きからね…」
 そのまま、自分の胸元まで軽い力で抱き寄せる。しなだれかかるように倒れ込んでくる体を抱き留めて、私は空いている方の手の指を舌で舐めてから、茉那の唇に這わせた。
「ふ、ふわっ…!」
 驚いて、びくっと震える体。そしてわずかに開いた唇の隙間から現れた舌が、私の指に、唇の柔らかさと明らかに違う感覚を伝えてくる。
「ん…っ…ん…」
 ちろちろと、冷たいアイスを舐めるように茉那の舌が動く。その可愛らしい動きに吸い寄せられるように、私は自分の唇を彼女の頬に寄せていた。
 柔らかな頬に口づける。音はしないけれど、かわりに舌で触れていく。
「しゃぶるのが好きなのは、甘えたがりなのよ? 茉那…」
 名前を呼ぶと、微かに舌にこめられる力が強くなった。
「んっ…。そんな事…ない…」
 指を舐める舌の動きが、だんだんと指を包むようになってきたのを確かめて、その指をゆっくりと彼女の口の中に挿入していく。
「ん、んむ……。姉様、指…綺麗」
 嬉しい言葉に応えるために、自分の唇をその耳元へ触れるほどに近寄せる。
「ありがとう。…じゃあ、茉那の舌でもっと綺麗にしてちょうだいな…」
「んんんっ…!」
 声と共に指をくっと、口の中に押し入れた。突然の大きな動きを口の中に感じた茉那が、驚いて指をくわえたままくぐもった声をあげる。
「ほら、こうすると…姉様の声がよく聞こえるでしょう…?」
 言葉は耳に届いた瞬間、相手の体の中を通り抜ける愛撫に変わると私は思う。肌にのせる外側の愛撫と、そして耳から伝える内側からの愛撫。
  同時に繰り返せば、それだけで身体を溶かす。
「ひ、ひぁっ……。や、耳元……だめ…」
 拒否の言葉。それにかまわず、わざと耳元で舌を使い音を立てる。脳裏で、茉那の全身を舌で舐めていく音を想像しながら、自分の舌だけで作る音を茉那の耳に届けた。
 くちゅくちゅと、舌だけで紡ぐ音。
「耳がいいの? …じゃあ、これからは眠る前に耳を愛撫してあげる…」
 淫らに、より甘美な音が出るように、私の舌が口の中で唾液と絡む。
「…ん……ずるい…私、余計に…姉様から……はなれられなくなる…んっ」
 指に絡まる息づかいが、だんだんと激しくなる。喉の奥からやってくる茉那の熱い息が、直接指にふれて、それが私の体を火照らせた。
「…んっん……んふっ……けほっ…」
 無理をしたのか、指をくわえこみすぎた茉那が咳き込む。舌の根本に触れるほど奥に入り込んでいた指を引き戻して、私は茉那の唾液がからみついた指を丁寧に舐めた。
 唇から指まで伸びる糸のようなそれを、舌で絡めるように味わう。そして、自分の唾液で改めて湿らせた指を、先程まで囁いていた耳元に近寄せた。
「そんなにしゃぶりたいなら、姉様の舌をあげる…」
「あむ……ん…」
 充分に濡れた舌を、茉那の唇に近寄せた。待ちかねた、という動きで、茉那の舌が私の舌を受け入れる。一瞬で音がするほど絡み合う舌と、わざと音をたてる茉那が可愛い。
「ほら、耳がもう…こんなに熱い…」
 濡れた指でくすぐるように、茉那の耳を撫でる。確実に火照る体の熱を逃がすように熱くなっている耳が、彼女の体温を感じさせて、触れているだけで心地よい。
「ひゃ、ひゃぅ…っ!」
 その心地よさに浸る私の舌に、小さな痛みが走る。耳に触れられた感覚に驚いた茉那が口を閉じたせいで、彼女の口の中にいた私の舌に、その歯が噛みついたらしい。
 痛みに少し驚いて唇を離すと、眼下に、怯えた瞳で私を見つめる彼女がいた。
「続きは、いらないの…?」
 意地悪な言葉を投げた。もっと、困ったところが見たくて。
「あ……う…やぁ…」
 質問に答える彼女の声が、途切れ途切れに零れて消えた。
「ごめん……なさい……」
 なにも言わずに見つめていると、やがて彼女が小さく呟いた。それで私はこのままでいることに耐えられなくなって、茉那の腰に手を回す。
「…じゃあ、この質問に答えて、茉那」
 腰に手をあてた、ということを伝えるために、彼女の腰に密着させた手のひらで、撫でるように腰の辺りを探った。
「姉様の手は、上と下、どちらに向かえば、茉那はもっと気持ちよくなれる…?」
「…虐め…よくない…よ。こんなの、途中で止められない…」
 言いながら私を見上げる瞳も、言葉と同じように恨み言を漏らしているように見えた。けれどそこに切なさが隠れていて、それが彼女の体の奥で震えているものだと分かる。
「…じゃあ、上から順番に姉様に教えてちょうだいな。茉那の体の隅々まで、ね…」
 拗ねたように見える茉那の、その髪をすくようにそっと指を通す。そのままうなじまで運んだ手に、茉那の小さな手が重なった。
「うん…」
 頷く茉那にキスをして、腰にあった手を服の隙間から中に入れていく。
「ふぁ……あ…ん……」
 思いの外冷たい私の手の温度に驚いたのか、触れられた肌が小さく震えた。手のひら全体をはわせるように上へとのぼっていくと、そこでふくらみにぶつかり、指先が、胸の先へと辿るように道を作った。
 待っていてくれたのか、肌とは明らかに違う固さの感触が指に触れた。その場所を、下着の上から丁寧に擦っていく。
「あ、あう…んっ」
 少しだけ恥ずかしさを残す切なげな声に吸い寄せられ、指だけを下着の中に差し入れた。
 初めて直に触れる胸の感触と温度、そして、指先と爪で軽くはじくとその固さをより確かなものにしていく、桜のつぼみのような突起。
「ほら…ここは食べて欲しそうにしてるじゃないの…」
 囁きながら、指先でこねるように押していく。
「やぁ……じらすの…やぁ…」
 不意に茉那の手が、服の上から私の手首をつかんだ。そして、それを激しくしてほしいという願いを、言葉ではなく自らの動きで伝えようとする。
「ひ、ひゃうっ…!」
 爪がそれに食い込むほど強くあたって、茉那がびくっと体を揺らす。
 そして、指に伝わるその感触が、私の舌を我慢させてくれない。
「ほら、茉那…。姉様の舌が、今からこれを食べに行くわよ…」
「あう…ん…姉さま…姉さまぁ……」
 しばらく離れることになる耳元に囁きを残す。懇願するような茉那の呟きが、すがるように耳元に届いた。だから、応えるように服の隙間に入れていた手で、そのまま服をたくし上げる。
 ほんのりと紅色のさす紅潮した肌と、それを隠す下着。その下着の上から、歯をあてがうようにして口づけた。
「下着の上からでもこんなに美味しいのなら……直接はどんなに甘いかしら…」
「ふ、ふぁ…あ、ん……んっ……」
 茉那の匂いが染みこんだ下着の香りが、私から少しだけ理性を奪っていくようで、思わず歯に力がこもる。
「ひっ…! や、やっ…姉さ…ま、痛い…や、駄目っ…」
 瞬間、茉那の体が軽くのけぞった。けれどそれは逆に自分の胸を強調しているようにも見えて、私はそれがたまらなく可愛いと意識する。
「大丈夫…本当に食べたりしないから安心なさいな」
 少しだけ涙の滲んだ茉那の目元に指をやって、それを拭う。そして、その指をそのまま頬から唇の方へおろしていくと、少しだけ不安そうな瞳が、指を追いかける。
 そんな視線の動きにあわせるように、下を向く茉那に彼女自身の胸を示し呟く。
「ほら、こんなに可愛いのを、食べるなんて勿体ないでしょう…?」
「……」
 注意していても聞き逃していそうな声で、茉那が答えた。
 食べてもいい、と。
「…離れられない体になっても、知らないわよ?」
 恥ずかしそうにうつむいている茉那の下着を滑らせて、もう片方の胸も露出させる。
「んっ…」
 空いているもう一つの先端に、今度は唇は触れないよう、舌先だけを絡めた。ちろちろと、まるで蛇のように舌先だけで胸を愛撫していく。
「やっ、姉様の舌っ…姉様の舌ぁー…んんんっ」
 不意に舌先に、茉那の指が触れた。我慢できなくなったのか、茉那の指が、自分自身の胸の先に触れ、控えめに動き始める。
「茉那は、こうするのが…好きなのね?」
 その動きを、ちょっとだけ強めに再現していく。
「い、いたっ……でも、ん…ぃい…」
 初めはわずかに抵抗するようにこわばっていた体の緊張が、だんだんと軟化していく。それをうながすように、指の動きにあわせて、舌も絡めて愛撫を続けた。
「んっ…先っぽ…いい、で…す…」
 切なげな言葉。けれど確実に熱い息を帯びていて、それは私を震わせる。
「そう、ここが好き…?」
「ひゃう、んっんん…やぁ……先っぽ…好きぃ…」
 舌で、はじくように胸の突端を舐める動作を、丁寧に幾度も繰り返した。自らを示すようにどんどんと固くなるそれに唇をあて、吸うようにくわえて、舌で何度も転がしていく。
「…あ…う……やぁ、もっと…もっとぉ……」
 甘える声と同時に、茉那の腕が私の頭を自分の胸へと押し当てるように抱きしめる。
「んっ…ぁ…ぅ……んん…」
 押し当てられたことで、唇がぐっと柔らかな感触で支配された。呼吸を忘れないように注意しながら、それでも舌を動かすことはやめない。
 上目遣いに茉那を見上げると、茉那と視線が交差した。ほう、という恍惚の表情。
「んくぅ、舐めてる…よ…姉様が…私の…。子犬、みたいに…や…変、変だよ…」
 熱にうなされたうわごとのように、呟きを漏らす茉那。
「変…? 姉様より、茉那の方がおかしくなっているみたいよ…?」
 そんな震える彼女の方がよほど子犬のように見える、なんて思いながら、小刻みな震えがとまらない茉那に問いかける。けれど、その問いかけに答えたのは言葉ではなく、彼女の小さな手だった。
 それは私の手首をつかむと、自分の秘部に導き、押し当てて擦りはじめる。
「…ん…もう……我慢、やぁ…。姉…さまぁ…」
 言葉と共に唇が降りてきて、私の唇に触れた。唇から雫が零れて、それは橋のように糸を引いてお互いの唇を繋ぐ。
「んっ…んくっ…。ひゃ…いい…よぅ…。もう……我慢、やぁ…」
 下着の上からでも分かる、軽く押し当てただけで染みだしてきそうなほどに溢れる愛液が、私の指をどんどんと浸食していく。悦楽を体の芯で受け止めている証が私の指に熱く熱く絡みつき、私はそんな茉那を、抱きすくめるようにして引き寄せた。
「…ほら、姉様の体にしっかりしがみつきなさいな」
 その小さな体を、私の膝の上にまたがるような形で抱き寄せる。じんわりと染み出す愛液が、すぐに私の膝を濡らしていった。
 彼女の手の動きに任せていた自分の指を、だんだんと自分のタイミングで動かし始める。親指で、小さな芽を探るように撫でて、くいっと力を込めた。
 密着させた体に、彼女の感覚が流れ込んでくる。
「は、はうっ…んっ、んん…あ、あううう…っ!」
 びくん、と確実に跳ねる体。
 発汗とともに、どんどんと昂揚していく茉那。その全てが、彼女と重ねている腕や指先、膝に伝わってくる。私が自ら指を動かし始めたことで役目を失った彼女の両腕がするっと伸びてきて、私の首の後ろで交差し、すがるように抱きついてきた。
「ほら、姉様の指が…茉那の中に入るわよ…?」
 膝で彼女の体を浮かせて隙間を作り、下着を横にずらす。わずかに折り曲げた中指は、その隙間から溢れる愛液に吸い込まれるように、くっと入ってしまう。
 小さく、ひねるように指を動かしていくと、下着の上からでははっきりと聞こえなかった音が聞こえてきた。くちゅくちゅと、指の動きにあわせて響く淫らな音。指はつぷつぷと吸い込まれるように、茉那の中へと埋もれていく。
「ん…は、はああぁぁぁっ……や、はいって…きて…んんっ」
 息を吐くような茉那の喘ぐ声。それは、たまらなく私を感じさせた。
 指に伝わる、熱くとろけるような感触。くわえ込まれていく、という表現がしっくりくる彼女の中で、私の指は役目を忘れずに動き続ける。
「ほら、これが姉様と茉那の音よ…?」
「や、やぁ…音、はずかし…い…よっ」
「そう…。そんなに嬉しいの…」
 囁きながら、音をたてる。音と感覚が、だんだんと頭を痺れさせるような快楽へと導いてくれるのが分かる。だから、指をくっと曲げて中を触れるようになぞる。似た感触など、この世にふたつとないであろうそれが、指を包んで微かにうずいた。
「や、そこ、駄目…っ! お腹側の方はっ、やっ、んっんくっ…っ!」
 指に加わる圧。中指をゆっくりと引き抜いて、今度は薬指を足す。
「じゃあ、今度はふたつ…」
「ひゃ、ひゃうん…っ! や…やぁ…っ」
 私の言葉、そして実際に入ってきた先程よりも大きめの異物。その二つに、そんな言葉を漏らした茉那はのけぞるように背を逸らせた。
 抵抗が弱くなり、溢れるように湧く粘液が私の指を包み込んでいく。
「ほら、どんどん溢れてくるわよ…茉那の中から、茉那が淫らな子だっていう証が…」
 静かな室内に響く淫らな音と、それに呼応する少女の声。その表情からは想像できないほど淫靡な音が、彼女の秘部を中心に紡ぎ出されていく。
 それは、聞いているだけで体が熱くなる魅了の音。
「あ、あぁ…淫らでいい…淫らで良いからもっと、もっと…して…ぇ…んくっぅ!」
 私の指に吸い付くように、茉那の腰がだんだんと沈んでくる。もっと欲しいという言葉よりも、その動きの方が、よほど私を魅惑する。
 あてがっておいた自分の膝を使い、互いの体をより密着させる。膝で自分の手の甲を押さえつけるように膝をずらし、ぐっと体を寄せる。
 指が、落ちるように入っていった。
「茉那のその熱い声を、姉様の体にも分けて…」
 言いながら、もはや言葉にならない声を出し続ける茉那に口づける。驚きと苦しさは一瞬で、茉那は自分から舌を私の唇の中へと割り入れた。けれど、私がその舌を受け入れるよりも早く、彼女は、体を硬直させていた。
「ひゃあぅ…ッ! んっん…んっ…!」
 次の瞬間、全身を小刻みに震わせる彼女。その下半身から、それは細い滝のようにして零れだしていた。床に円を作りながら広がっていく薄く黄色の液体と、独特の匂い。
「…あ、あ、あ…ぁぁ……」
 恍惚と、しかし茉那はその行為を止めることが出来ない様子だった。私の体に小さな手ですがりながら、びくびくと体を震わせる。
「あ…あ、あ…姉、姉さま……」
 小さな湧き水のように、微かな音と共に続けられる排尿。
 やがて音がやみ、室内に完全な沈黙が戻る。
「茉那…」
 名前を呼んだ。濁るような色をしていた瞳に光が戻ると、彼女は私を見つめる。匂いと、そして足下に作られた小さな水たまりが、自分の失態を気づかせた。
「ご、ごめんな……っ…」
 謝るのは分かり切っていたので、その言葉を言わせないように口づけた。零れる唾液が私の唇と茉那の唇をつなぎ、怯えていた彼女の唇と舌は、どこか遠慮がちに、私の舌を受け入れる。
 汗と激しい動きですっかり乱れた茉那の髪。それをすくように指の櫛でとかして、そのまま頭を撫でた。茉那はそれで少し安心したのか、自分の失態を詫びるかのように、懸命に私の舌に自分の舌を重ねた。
「んむ…んっ…あ、む…姉さ…ごめ……んむっ…ゆるし…っ…」
 かろうじて聞こえる言葉が謝罪であると分かるのは、私の背中に回した彼女の手が、これ以上ないほど切ない動きをしていたせいだろう。
 だから私は、彼女を抱きしめて、そのまま仰向けになるように彼女を抱いたまま倒れ込んだ。
「ふわっ!」
 いきなりの事に驚き、思わず声をあげる茉那。覆い被さるような格好になったことを知って、彼女はわずかに戸惑いながら、私を見下ろしてくる。
「姉…さ…ま」
 悪さをした子犬のように、お仕置きがくると思って震えているのが分かる。怯えた唇、震える体。そしてなにより、きつく閉じられた瞼。
「茉那…」
 低い声を出しながら、しかし私はくすくすと笑った。私がこんなふうに微笑んでいることに瞼を閉じている彼女は、気づくはずもない。
 ただ、その低い声を聞いた彼女は、いよいよ体をこわばらせる。
「ひ…許…許し……姉さ…ま…汚して……あ、ご、ごめん…な…さ…」
 歯の根すら合わない懇願。命乞いでもするかのように、茉那は懸命に言葉を探す。このままにしておいたら、きっと私の頬は涙の雨で濡れてしまうだろう。
 だから、私は指を伸ばした。まだ熱の残る、茉那の愛液に包まれていた指を、彼女の震える唇に這わせ、そして、ゆっくりと唇の輪郭をなぞる。
「…次からは、粗相しては駄目よ?」
 唇をなぞった指を茉那の首の後ろに回し、引き寄せて、そして濡れる唇に口づけた。
「…え…」
 案の定、きょとんとしている彼女の様子がおかしくて、私は笑うのをこらえるためにくっと唇を軽く噛んだ。それほどまでに、その顔は無防備で愛らしい。
 さきほどの粗相の罰を与える、というのならば、この表情で充分かもしれない。そんな事を思いつき、柄になく彼女を甘やかしてしまいそうな自分が、なおさらおかしかった。
「私なら、ほら……気にしてないでしょう…?」
 まだわずかに怯えが消えない様子の茉那。それを見て、私は寝転がる自分のすぐ側にある、茉那の作った水たまりに指をつけた。
「…これも茉那の一部。そんな詮無いことで怒らないわよ」
「…姉さま…」
 料理の味見をするように、茉那に見せながらその指を口に含む。じっとその指の行方を見つめていた茉那の頬が、わずかに紅潮するのが分かった。
「…汚いです、その…無理を…しないで…」
 目線が合うと、茉那は慌ててうつむいた。いけない場面を見てしまった、と思ったのかも知れない。おきどころのない手を合わせて、もじもじと落ち着きなく動かしている茉那を見ていると、今度は自然に笑みが零れた。
「本当に可愛い子ね、茉那は…。私が無理なんてするわけないのに」
「だって…それ、私…の……」
「いいから。おいでなさいな」
 羞恥が限界に到達したのか、耳までが真っ赤に染まる茉那。そんな茉那の体を、私は有無を言わさず抱き寄せた。
「茉那は私の一部。私の体は汚くなんてないでしょう? …だから大丈夫よ」
「…姉さまっ」
 抱き寄せると、すぐに彼女の両手が私の背中で交差した。胸に頬をすりよせるように、甘えた仕草で体を預ける茉那の頭を、何度も丁寧に撫でる。
 すっかり落ち着きを取り戻し、安らいだ表情をのぞかせる茉那。そんな顔を見て、また少し悪戯な気持ちになる。だから、その耳に唇を寄せて囁いた。
「…今日の粗相の埋め合わせは、後日にとっておくわね」
「あ、あぅ…」
 耳を舐めると、茉那はちょっと恨めしそうに顔を上げて呻いた。その視線を確認して、私は床に背中を預ける。
「…んっ」
 抱きしめられていた茉那が、私の腕の中からもぞもぞと這い出てキスをした。頬に残る感触。それを指で確かめようとすると、茉那はそれをしゃぶり、そして呟く。
「いじわる…」
「…いじわるな私と、やさしい私だったら、茉那はどちらがいい?」
 呟きに問い返すと、茉那は指を舐める舌をそのままに答えた。
「…どっちも…好き…」
 気持ちの代わりに、茉那の頭を撫でる。柔い髪は、私の指先を吸い込むように沈む。
 今夜はこのまま眠りに落ちていこう、そう決めて。
 私は、茉那をもう一度抱き寄せた。